『RUSH』と『サーキットの狼』~’76年F1日本グランプリをマルチアングルで愉しもう!?
生々流転のモーターレース界。だからこそ歴史が積み重ねられ、そのたびにサーキットに感動が刻まれていきます。
トラブルや事故も多い。
あの鈴鹿サーキットも、先ごろこんなゴシップが飛び込んできたり。
【速報】鈴鹿サーキットの立体交差が消滅!デグナーから西ストレートへ直に接続、2017年に向け改修へ。 #F1jp #F1 @suzuka_event #AprilFools pic.twitter.com/ylIIC1QDqz
— port F1 (@portF1) 2016年4月1日
※ちなみにこれはエイプリルフールのネタでした
多くの日本人にとってはフジテレビがシーズン全戦の放映を始め、マクラーレンホンダからスタートするセナとプロストのライバル時代を築いた80年代末からの記憶が強く刷り込まれているかと思うけれど、鈴鹿での定期開催より以前にも日本でF1レースが行われたことがありました。
日本で初めて開催されたF1は1976年、富士スピードウェイ。そのシーズンのラウダとハントのチャンピオン争いの死闘は映画『RUSH』で再現されています。
ちなみに『RUSH』で主人公となっているニキ・ラウダの最後のチームメイトはかのアラン・プロスト。ラウダの後任としてマクラーレンのシートに座るのがアイルトン・セナ。
話を1976年の富士スピードウェイに戻しましょう。
このシーズンのニキ・ラウダとジェームズ・ハントの攻防が『RUSH』のクライマックスになっているのだけれど、シリーズチャンピオン争いはニキのニュルブルクリンクで開催されたドイツGPでの大事故を経てこの日本での決着へと繋がっていきます。
このへんはフツーに’史実’なんだけれど、まぁ昨今歴史の教科書に載ってることでもドラマにしたら「ネタバレ」扱いされちゃうご時勢なんでそのあたりの言及は曖昧で済ませておきましょ。
とりあえず関心があったらぜひこの『RUSH』を観てください。映画としてもすごくいい作品だと思うので。
そうは言うものの、ざっくり削ってもこの記事で書くことがなくなっちゃうので、ちょっとサワリだけ紹介。
※以下画像は『RUSH プライドと友情』より
この作品中に出てくるF1マシン、映画館で本編を観ていたときはてっきりぜんぶCGで再現したんだろうなー、と思ってたんだが、なんとコレクターが保存している現物を集めて撮影したそうな。
すげー。
ま、専門家なんかからみたら細かいツッコミがあるらしいけど、
(ウィングの角度が違うとか…)
そこまでマニアではないんで単に当時のホンモノのマシンが画面に並んでるのを見るだけでもコーフンもの。
件のニュルブルクリンクでのラウダの事故もリアルに再現。
(もちろんこれはCGだと思う)
『RUSH』劇中ではもちろん日本GPも登場する。
まぁここは富士スピードウェイだからあながち間違いではないが。
他のサーキットの再現と比べちょっと詰めが甘い…かも。
ついでの話だけれど、劇場公開時は主人公の2人の吹替にKinkiKidsを起用、映画ファンとモータースポーツマニアからは大苦言を浴びましたね。
2016年現在Amazonではノーマル版よりもKinki吹替の入っているスペシャル版のほうが安いという謎価格設定になってるので、今がお買い得かも??
実は、『RUSH』よりも遥か以前に、この1976年F1日本GPを舞台にした映画が存在していました。
それが東映で製作された『サーキットの狼』。
もちろん、言わずもがなのあの超人気漫画の実写化。
しかも”完全”実写化!! との謳い文句。
『RUSH』と『サーキットの狼』を一緒に観ることで、1976年F1日本グランプリを多角的視点から眺めるという面白さが生まれるかも(?)と思い立ったので試してみました。
東映『サーキットの狼』は当時のプログラムピクチャーとして制作されたうちの1本で、1977年に劇場公開。
前年に開催された富士スピードウェイのFIの模様は、本編の冒頭・いわばドラマの導入部として挿入されています。
もちろん雨の中を走るジェームズ・ハントのマクラーレンも捉えられている。
P34。当時はティレルではなく「タイレル」と言っていた。しかもなぜかこのとき「たいれる」とひらがな表記をボディに採用。厨房臭いフォルム意表を突くデザインが当時のクソガキどもの夢いっぱいの小学男子たちの憧れでした。
更に映画『サーキットの狼』内のレースシーンでは、『RUSH』では描かれていない日本人選手たちの活躍も見られます。
ゼッケン51、長谷見の乗るマシンはこの映像では8位を走行(と劇中では述べている)。長谷見の前のゼッケン19をつけた白のマシンはサーティースのアラン・ジョーンズ。後ろを走るのはゼッケン6グンナー・ニルソンの乗るJPSロータス。
このレースにはこの長谷見昌弘と共に星野一義、高原敬武、桑島正美らがスポット参戦。
実際のレース映像が劇映画に出てくる作品という意味で言えば、これはこれで貴重なのかもしれないかな、と思います。
※この映画に関するF1インジャパンの情報って、Wikipediaにも記載されてない(2016年10月8日現在)ので、レースファンにはあまり知られてないのかも…
ニキ・ラウダの映像もちょっと出てくる。
これはバックヤードでのショット。
表彰台でのアンドレッティとハントのショットも!
フィクションとして再現された『RUSH』の映像と見比べるのも一興かと思うんですが、どうでしょ。
というのが今回のテーマでした。
さて、『サーキットの狼』に登場する’76年Fiイン・ジャパンの情報があんまりにも短かったんで、改めてこの映画そのものについてちょっと語ってみましょう。
まあ、登場するロータス・ヨーロッパが漫画に出てくるのとは違ってリアウィングがないとか、そのへんはもう目をつぶりましょう。
(ちなみに漫画の中で出てくる「練馬 56 そ ・740」のナンバーの車体は池沢氏の個人所蔵だったと思う)
この当時の漫画の映画化は、原作とは似ても似つかぬ代物になることが当たり前みたいな時代。
(ん? さっき『完全実写化』って言ってたよね…!?)
同じ「週刊少年ジャンプ」で連載してた『ドーベルマン刑事』だって原作コミックとはまるっきり別な内容になっちゃってたし、
『唐獅子警察』なんてのは監督自身「原作を読まずに撮った」と公言してるくらいだし。
(それでいったいなんで映画化を企画したのかむしろ知りたい…)
唐獅子警察 [DVD]
ま、それでも映画としてはけっこう傑作なんですが。
殊にこの時代の東映作品はこの傾向が著しくて、原作コミックからただタイトルと登場人物名を借りてきただけの別物を量産。
昨今言われている「原作レイプ」なんてこの時代から比べたらぜんぜん甘々なくらい。目クジラをどこにぶつけていいのかも判らないような凄まじさだった。
がんばってたのは高倉健を主役に据えた『ゴルゴ13』くらいだったんじゃないだろうか。
ゴルゴ13 [DVD]
なぜかイランでロケもしてて、もちろん話の流れで外人も出てくるのだが、これが吹替で日本語をしゃべってるとまさにさいとう・たかおの劇画そのもののような画に!
(ある意味正解)
その後千葉チャン主演で作られた2作目『ゴルゴ13 九竜の首』はいつもの東映風味(というか千葉チャンテイスト)になっちゃってたけど。
蛇足だけど千葉チャン主演のはすべからく千葉チャン映画に変貌するから、それはそれで出来が狂ってる(褒め言葉)んだけど。『ウルフガイ』しかり、『ボディーガード牙』しかり。『空手バカ一代』もあったなあ。
脱線はほどほどにして、さて『サーキットの狼』。
まァ先述のように物語の枕に当るシークエンスでF1日本GPが採り上げられているんだけれど。尺としては正味5分くらい。
うまく本編に組み込まれているけれど、よく見れば役者のドラマ部分とは上手く編集されていて繋がってるだけで、現場で同時進行で撮影してたわけじゃあないよね。
どう見てもエキストラを集めた別撮り。
て言うか、ヘタしたらF1日本GPが開かれた’76年10月の時点では、この映画の企画さえ立ち上がってなかったのではないか、とも思う。プログラムピクチャーってそういう即席量産の時代だったし。
なので、本編に出てくる映像も、元々記録映画として撮影されていたレースの模様を借用して持ってきた可能性が高いかもしれない。
と、今回DVDで改めて観返して気づいた。
実際ラウダのレース経過もまったく史実と異なる編集にされてるし。
ということで、後からくっつけたと見るのが自然ですね。
ま、事実を基にしたドラマでも別に史実通りに物語が進むわけではないですしね。
先の『RUSH』でもラウダの所属チームの変遷に関してはかなり端折って描かれてるし、件の’76日本GPだって、実際にはラウダ夫人は帯同していなかったようですし。
ともあれこの映画『サーキットの狼』、後で記述するけど当時の現役レーサーがいっぱい出てくるので、モータースポーツ側がかなり協力的だったんじゃないかナ、と思う。
もうちょっと本編を掘り下げてみましょう。
いちおう原作に則した守られるべき設定は守ってはいるのですけれど、
その裕矢が憧れているのが、F1レーサー、ニキ・ラウダ。
ま、この辺のくだりでちょっとだけ冒頭のF1インジャパンと絡めてますね。(ムリヤリかも)
『サーキットの狼』といえばミキと早瀬佐近の兄妹ですが、もちろんこの映画にも主要キャラとして登場。
でも早瀬ミキは、設定がぜんぜん違う。族のリーダーでもなんでもなく、なぜか裕矢のバイト先「谷田部モータース」のバイト仲間として登場。
こーゆう見た目の明快さは東映テイストですね。
東映プログラムピクチャーはビジュアルで名前やキャラがすぐわかるようになってて一見さんにも優しい映像作りを心がけてます。
更に風吹裕矢の最大のライバル、早瀬佐近が登場…
ハーケンクロイツを掲げるポルシェ軍団なんて今ならヤバすぎて炎上モノだな…。
ここでついに姿を現すナチス軍総統・早瀬。
更にヤバげな表現です。子供がマネしたら市議会で問題になります。不健全マークものです。
他の登場人物では、悲劇のヒーロー、沖田は外せないですよね。
でも原作のように結核には冒されてはいない。
うーん、これはこれで当時の東映配役としてはけっこう当たりなほうか。
警官なんだけれど、この制服って白バイ隊のだよね…
劇中ではずっとフェアレディに乗ってて白バイには搭乗してないのだが。
(あ、それも判り易さ重視の東映スタイルか)
と、ふと「千葉治郎って今どうしてんだろ??」と思い立ってぐぐってみたら、なんとこんな活動をしているようです。おどろき。
■ジージの森 運営者の千葉治郎(矢吹二郎)は千葉真一の弟だった!-自由人のここだけのはなし
そんなこんなでドラマは進んでいくわけなんだけれど、いろいろあって裕矢・早瀬・沖田は鈴鹿サーキットで開催される「鈴鹿オールスターレース」なるものに参加することになります。
このレースはこの『サーキットの狼』の世界ではエントリーフリーの日本の最高峰のレースらしい。
いったいこの国のレースカテゴリってどうなってるのだろう、などと考えてはいけない。ここは東映なのだ。
さてさて、そこに集うのは当代一流レーサーの面々。
…えっ、この人たちと街の走り屋が同じ土俵で勝負すんの…? (考えるな、感じるんだ)
それはともかくとして、登場するレーサー達が今見ても凄いんですよ。
ここに紹介したのはほんの一部で、映画本編ではクライマックスの「鈴鹿オールスターレース」でそれぞれがスーパーカーを駆って出場。
…とはいうものの、実際のレース映像では彼らはまったく映らず、ホントに運転してたのかどうかもよく判らない状態なんです。
まあ、おそらくこの各レーサー紹介だけのために鈴鹿に集めたわけでもないだろうから、みんなちゃんとレースに参加してたんだろうとは思うんですが…
まあ、ひょっとしたら各スーパーカーのオーナー達が運転していたのかもしれないんだけれど…
(余談だけれど、『蘇る金狼』で松田優作が最後のほうで載ってるカウンタックは織田無道氏所有のもの)
それにしてもこれだけの第一線のレーサーたちを出したのに画としてろくに捉えてないっていうのは、今にすればすごくもったいないなぁ。
レースそのものはおそらく映画のために行われたもので、映画の宣伝を兼ねた、ヴィンテージカーレースのようなエキシビジョンみたいなものだったんでしょうね。
レースの模様。最後尾にトヨタ200GT! たぶん傷つけないよう大事に乗ってた結果なのではないかな。
ただ、あの当時小学生だった自分自身もそうだったけれど、ターゲット層となるガキ共がフォーミュラレースやプロレーサーにそこまで興味を抱いてたわけじゃない。
当時リアルタイムで週刊少年ジャンプを毎週楽しみにしていた小学生として個人的な感想を言えば、漫画『サーキットの狼』は街道レーサーから始まってディノRSで”幻の多角形コーナーリング”を駆使して戦うまではすげーおもしろかったけど、風吹がフォーミュラに乗ってからは思いっきりつまんなくなったと感じてた。
子供心には、やっぱ見た目がハデなスーパーカーがビシビシ響くんですよ。
ということでこの映画でもかなりがんばって人気車を集め劇中に登場させています。
(いちいちスーパーがインポーズされるのはユーザーに優しい山口和彦監督スタイル)
そのあたりはしっかりとエクスプロイテーション映画としてのツボは押さえてたりしますね。
でも、翻すようですが大人になってから改めて『サーキットの狼』を読み返すと、前半の走り屋時代やハコ車レースなんかより、フォーミュラ行ってからのほうが俄然面白くなっちゃうんだよね。
何せネルソン・ピケなんかがどルーキーで出てきて風吹裕矢とバトルしたりするんだもの。後々の活躍を知ってるとすげー興奮します。
モータースポーツ好きは改めて『サーキットの狼』終盤を読んだほうがいいよ! おすすめ。
と、いうことで、『RUSH』のレビューのつもりが思わず『サーキットの狼』を語ることになっちゃったんだが、まぁいいか。
1976年、日本初のF1が開催されたのは、日本では漫画『サーキットの狼』でスーパーカーブームに火がつき、国内でもレース熱が盛り上がりを見せ、モータリゼーションが大きなムーヴメントを迎えた時代でした。
あれから今年でちょうど40年。
今年の日本GPでは、いったいどんなドラマを見せてくれるのでしょうか。
楽しみにしたいと思います。
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最後に、ロン・ハワード監督作品はこれを推しておきたい。